【ご報告】アマゾンを石油に沈めないために~エクアドル・ヤスニITTの挑戦とグローバル市民社会の責任

今回の講演会「アマゾンを石油に沈めないために~エクアドル・ヤスニITTの挑戦とグローバル市民社会の責任」ですが、おかげさまで50名ほどの方々にお越しいただき無事終了しました。当日は『オルタナ』誌の方が取材に来ており、以下の報告をアップしてくれました。

「南米の産油国エクアドルが油田を放棄し、脱石油社会を目指す構想」(オルタナ2011年11月14日)

講演会ですが、まずは講演会の趣旨説明&問題提起の後に、ヤスニに関する動画を2本上映しました。

20111112_01.JPG

次に、大使館の方々からの講演がありました。このヤスニITTイニシアティブを推進しているエクアドルの駐日臨時代理大使、ボリバル・トーレス・セバージョスさん、大使館員のハビエル・エグエス・ゲバラさん、商務参事官のパルリーナ・ヒメネズさんから、このイニシアティブについて説明していただきました。

そしてその後、神奈川大学の新木秀和先生(専門:ラテンアメリカ地域研究)と上智大学の高島亮先生(専門:国際関係学)がそれぞれコメントを述べ、トーレス大使がそれに答えるという形で進みました。

最初のトーレス大使の講演は、このイニシアティブがめざす目的、ヤスニの自然とそれが置かれた状況についてでした。イニシアティブの目的として、「開発モデルの変革」「先住民族の暮らしの保護」「生物多様性の保護」「温暖化ガス排出削減」を挙げていました。それはつまり、これまでの自然を搾取していた社会から持続可能な社会に変えていくことであり、現在の世代だけでなく未来の世代にも良いことだと力説していました。

20111112_02.JPG

また、ヤスニの自然がいかに豊かで貴重なものであるのか、そして、石油開発が行われた場合にはどのようなダメージを受けるのかについても説明がありました。さらには、石油開発は環境だけでなく、例えば自立的な経済の生産性の喪失、地域社会の崩壊、国境付近の争乱の増加、先住民族の文化の絶滅など、地域の経済、社会、政治、文化にとっても打撃となることも述べていました。

その次の大使館のゲバラさんからは、二酸化炭素排出量と世界の共同責任という視点から話がありました。資料として示された世界各国の1人あたりの二酸化炭素排出量を見ると、先進国では1人あたりの量が多いことが分かります*。その上でエクアドルは、国際環境法の共同責任の原則に基づき、ヤスニITTで石油開発をした場合に見込まれる収益約70億ドルの半分以上にあたる36億ドルの自国での確保にはすでにめどをつけ、残りの半分にあたる35億ドルの負担を国際社会に依頼するということが、このヤスニITTイニシアティブの基本的な考え方だとのことでした。

 *参考:当日示された資料とは異なりますが、「全国地球温暖化防止活動推進センター」のグラフを見ると、それがよく分かります。例えば中国やインドの国としての排出量は大きいですが、1人あたりが出している二酸化炭素の量は、先進国に比べるとまだまだ少ないのです。(こちら


また、国際社会からの資金は、再生可能エネルギープロジェクトなどに使われますが、すでに風力や地熱発電プロジェクトなどが一部スタートしているとの説明もありました。

ヒメネズさんからは、国際社会からの出資金&寄付を預かる国連開発計画のヤスニITT信託基金への出資方法について説明がありました。2ドルから5万ドル未満は「寄付」と見なされますが、5万ドル以上は「出資」としてCGY(ヤスニ保証書)が発行されます。CGYには利子はつきませんが、エクアドルが約束をほごにして石油開発を始めない限り、CGYには満期も償還期限もありません。出資&寄付については次のサイトから行えます。
・2ドル~5万ドル未満クレジットカード寄付→こちら
・5万ドル以上の出資(PDFによる英文説明書をご覧ください→こちら

20111112_03.JPG

大使館の方々の講演後、休憩をはさんで新木先生と高島先生にコメントをいただきました。

新木先生が気にされていたのは、グローバルな視点から注目を浴びているこのイニシアティブですが、現地の人々の声があまり届いていないということでした。もともとこのイニシアティブの提案は、市民社会から出てきたものなのです。

また現地では、ヤスニITT地区のすぐ横やアマゾンの他の地域でも石油開発が行われているという現実があります。そんな中、ヤスニITT地区だけが例外とされ、それが他の場所の開発の免罪符のようになってしまう恐れについても指摘していました。

そして新憲法との整合性に関する懸念もありました。エクアドルは2008年、もともと存在していた先住民族の権利に加え、「自然の権利」を明記した画期的な新憲法ができたとのことですが、それが守られるのかということです。

また、世界遺産のガラパゴスがかつて危機遺産となってしまった原因(地元の利害、国の政治の動き、国立公園の機能不全等による社会紛争の頻発)を挙げ、ヤスニはその二の舞にならないように、ローカル、ナショナル、グローバルの各レベルでの状況をよく考える必要があるとのことでした。

高島先生も地元の人々の声を聞く重要性を指摘していました。その理由として、開発が厳しく制限されたあまりに、地元の人々が木も伐採できず農業も許されなくなり、生活に支障をきたしたというブラジルで実際に問題となった例が紹介されました。

資金が十分に集まっていないことに関しては、エクアドル側でできる出資者のインセンティブを高める試みとして、アマゾンでのモニタリングや情報開示を徹底していくことを例として説明していました。

地球環境の費用と便益という観点からは、これまで世界が恩恵を受けながらもその費用の一部しか払ってこなかったという現実があるため、このイニシアティブはその費用と便益を考えるきっかけを与える画期的な取り組みであると述べていました。

国際社会への発言力を強める方法として、資源を持った他の国々と協力して国際的な枠組みを構築することや、資源を持たなくても先進国の大量生産&消費によって被害を受けている国々とも協力を進めることで発言力強化を図る方法もあるとのことでした。

トーレス大使はコメントを受け、ヤスニITTイニシアティブには、これまでのエクアドルの石油依存の姿勢を変え、ヤスニに住む先住民族の生活を守ることも含まれことを説明しました。

そしてまたイニシアティブは、政府だけのものではなく国民すべてのものであること、エクアドルに住むすべての国民が政治的決定に関わっていくと述べました。

ガラパゴスとは類似点も異なる点もあることを説明。

炭素取引については、イニシアティブは商業市場には介入していかないことを目的としているので、排出量売買については考えておらず、新しいものを提言していきたいとのことでした。

またトーレス大使は、イニシアティブは天然資源を守っていくことを目標にしており、天然資源の消費については供給側と消費側が一緒に考えていく必要があり、日本とラテンアメリカの相互理解をもっと深める必要も訴えていました。

この講演会のような機会はお互いの相互理解のために有益で、このような活動を続けていくことで国際社会がより良い理解を深めていくことができると思うとも言っていました。そして最後に、これから解決していかなければいけない問題もあるが、日本の皆さんにも自然を守っていくという活動に理解を示していただき、ぜひこの活動に参加してほしい、と訴えていました。

以上が大まかな内容です。講演を記録した音声ファイル(MP3)がありますので、
詳細はこちらでお聞きください。

Yasuni111112-1.MP3(前半:最初からトーレス大使の話まで)
Yasuni111112-2.MP3(後半:新木さんのコメントから最後まで)

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。